テキスト:星宮えりな



★AfterStory -牛込柳町Side-

 オーディションが終了し、それぞれ駅へ戻ることになった。僕も牛込柳町に到着。その直後だった。僕が駅を出るとスマホが鳴り、メッセージを受信した。そこには車掌からのメッセージが届いていた。

『首尾よく成功しましたね』

 その言葉にすぐさま『協力に感謝します』と返信する。

「はあ……無事に終わって良かった」

 スマホから顔を上げて空を見る。綺麗な星が瞬く空を。

(夏目漱石役は、どうしても僕が演じたかったんだよね)

 なぜなら僕の街にゆかりのある作家で、僕が敬愛する作家だから。けど先輩たちを差し置いて、主役の座を奪うのは身の程知らずというもの。そのくらいの弁えはある。だから皆が納得する形で、引き受けることができたらと思っていた。
 そこで僕は考えた。和臣は素直で感情が顔に出やすい。けど律儀だから、ストレートに聞いても遠回しに聞いてもオーディションのことは教えてくれないだろう。ならオーディションのことを知っていて、かつ話してくれそうな人物は――と。

(まあそんな人、一人だけだよね)

 ということで僕はすぐさま車掌に探りを入れてみた。透吾のとこの『紀の善』の抹茶ババロアを手土産に。すると聞いてもないことまで話し出す車掌。

(簡単すぎるんだけど……。こんなんでいいのかな、車掌って)

 ちょっと彼の仕事のことが心配になる。まあでもこれでオーディションの選考方法が知れたから良かった。ただ方法を知っていても、どうしたらいいのか。計画が固まっていないままオーディションの時間を迎えた。
 でもオーディション会場となる8号車に向かう途中で僕の計画に光が見えた。
 会場となる隣の車両に怪しげなスピーカーを発見。しかも至る所に隠しカメラも見つけてしまう。

(ああ、どうしよう……。少しわかってきたかも?)

 車掌からの話と和臣の性格から、もしかしてと考える。そして決定打になったのは――会場に着いてからの和臣の笑顔。これまでに見たこともないような楽しみで仕方ないという笑顔だった。

(そっか。君はいま楽しんでいるんだね。それなら……)

 僕は――君の期待通りに僕を演じてみるよ。
 そして僕のこの秘め事は、君には秘密にしておこう。
(一緒に楽しもう……! ね、和臣)




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