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俺は、新御徒町 十和。
駅ナンバリングがE-10だから、十和と名付けられた。

俺の駅は、明るい白の壁に、テーマカラーの黄色をアクセントにしている。
床は、黒のタイルを張り込んだ落ち着いたデザインになってるんだ。

プラットホームの天井は、中央にむかって2つの曲線でつながれてる。
俺の駅のテーマは「円」。だから、曲線があちこちに使われていて……
そこの壁にもほら、丸い窓がついているだろ?
大江戸線の環状部を表す円になってるんだ。

それから、もう一つ、「変化」ってテーマもある。
改札前にあるこのパブリックアートは「The Metamorphosis of Edo」。
江戸の町の変化を表現してる。
祭をイメージした神輿を、ステンレスのエッチングで描いてる変わったアートなんだ。
ここにも、テーマカラーの黄色がアクセントになってるだろ。
それと、川をイメージした青も使われてるんだ。

昔、このあたりに「三味線堀」っていう船着場があったんだ。
寄席とか、見世物小屋とか、屋台なんかがたくさんあって賑わってたんだぜ。
俺の街と川は、けっこう深い関係、ってわけ。

……なあ、ところで、今日はどこに行きたいんだ?

隣の上野御徒町のとこと違って、この街、静かだろ?
余計な音が聞こえないから、仕事には集中できる。
俺はそんなところが気に入っているんだ。

けど、お前みたいなお嬢ちゃんを案内するとなると、
どこに行ったらいいか、悩んじまうよな。

お前さ、この街に来たことはあるか?
「御徒町」っていう町名自体はもう消えちまったけど、
駅名は、このあたり一帯で使われてるだろ。

ここには昔、徒歩で江戸の警備をしていた
「徒士(かち)」って呼ばれる下級武士たちが住んでいたんだ。
そこからこの名が来ている。

で、その武士たちが、ここで色々な仕事を始めたんだ。
中でも有名なのが朝顔の栽培だ。
江戸時代の「文化の大火」って大きな火事の後、このあたりは焼け野原になっちまった。
その空地で、変わり種の朝顔を育てたのが始まりなんだよ。
それが好評を呼んで、あちこちから人が集まり、江戸中に広まっていった。
酷い有様だった江戸の人々に、希望を与えた花ってことなのかもな。

朝顔以外にも、この街には、
昔の時代を思わせる職人気質の専門店がたくさん並んでいる。
弓具店とか、江戸風鈴の工房とか、
100年以上、暦を作っている老舗の出版社もあるんだぜ。

……ああ?俺の仕事?
この街には、探偵協会もあるんだ。だから、俺も探偵をしている。

駅なのに探偵なんておかしいか?
けど、昔から、困っている人を見ると放っておけねー性格だったからな。
いつも余計な仕事を抱えて生きてる。
おかげで夜も眠れねーくらい忙しい身なんだぜ?

それから、この街は、多くの神社が集まる門前町でもあったんだ。

そうだ……なあ、今日は鳥越神社に行ってみるか?
俺が息抜きに良く行く場所なんだ。
この近くだ。案内する。

この角を曲がって行こう。
ここには、「おかず横丁」っていう有名な商店街がある。
小さな通りだけど、いろんな惣菜屋が並んでて楽しいだろ?

この店の大学いもは、揚げたてがおすすめなんだ。
それから、向こうにあるのは「港屋」。
夏はかき氷がうまいんだ。
俺がよく喰うのは宇治あずきミルクかな。
ああ、俺、甘いものが好物なんだ。

……は?可愛い、だって?
ったく、お前さ、俺をからかうんじゃねーよ!
ほら、さっさと行くぞ。

この商店街を抜ければ、神社まですぐなんだけど……

……ん?
(・・・カツカツカツ・・・)
この足音……3人、いや4人……か?
どうやら、客のお出ましのようだな。

……いいか?
ゆっくりと後ろを見るんだ。
バカ!急に振り返るんじゃねえ。

俺達を付けてるやつらがいるはずだ。
わかるか?

……あいつら、この間の事件の……
いや、なんでもない。気にするな。

いいか、よく聞け。
奴らの狙いは、この俺だ。
だから、俺が相手をする。

次の角を左に曲がったら、お前は駅に向かって走るんだ。
できるな?
「ミラクル☆トレイン」がやって来たら、そのまま車両に乗り込め。

ああ、あいつらと話をつけるだけだ。安心しろ。
……危険なことなんてしないさ。大丈夫だよ。

今日のデートはお預けだな。
今度、ゆっくりお前の相手をしてやるよ。

……よし、今だ!行け!

 

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