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俺は青山一丁目縁。
駅ナンバリングがE-24だから、縁って名付けられたんだ。
俺にぴったりのいい名前だろ?

ホームにある柱が独特で、けっこー凝ったデザインなんだぜ。
鋼管柱を半透明の合わせガラスで包んでるんだ。
駅全体が「クリスタル」をテーマにしているんだけど、
ガラスをメインに、シルバーやアルミ素材を使っていて、
クールなイメージに統一されている。

ホームの端には、なぜかトンネルみたいに壁で囲まれた
狭いスペースがあるんだ。
秘密基地みたいで面白いだろ?

天井や階段の壁面は、無機質な素材で覆われてるんだけど、
異素材を組みあわせていたり、細かな模様が入っていたり、
良く見ると面白いデザインになってるんだぜ。

改札を出たとこにあるでっかいパブリックアートは「花鳥風月」。
黒で描かれたモチーフが大胆で、印象的だろ?

お洒落でかっこいい駅だって?
ふっ、そりゃそうだろ。俺の駅なんだからさ。

青山は華やかなイメージが強いけれど、 俺のいるこのあたりは、
赤坂御用地や青山霊園があったり、 緑も多くて、落ち着いた場所なんだ。
各国の大使館が揃っているし、 日本屈指の大企業が本社を構える街でもある。
見た目と違って、けっこー真面目に仕事もしてるんだぜ?

駅名は「青山一丁目」だけど、 実際にそんな地名は無いって知ってるよな?
……あー。そんなことも知らないんだ、お前。
このあたりは、青山通りを境にして、
俺がいる「北青山一丁目」か、「南青山一丁目」かに分かれるんだよ。
都電が走っていた頃から使われている旧い名前なんだぜ。
俺の街の事なんだから、ちゃんと覚えておけよな。

ほら、こっちだ。
この通りを曲がると、いちょう並木が見えてくる。
都内とは思えないような景色が広がるだろ。
大正12年にできたものなんだ。
代々木さんとこの苗圃で選ばれたいちょうの木を植えたんだけど、
樹齢はもう100年になるんだぜ。

通りから奥に向かって、146本もの木が、高さの順に植えられているんだ。
地盤を下げて、遠近法で立体感が出るように整備されている。
遠くに白い建物が見えるだろ?
あれは絵画館なんだけど、あの建物を正面にして、
両端の木々が見事なシンメトリーになっている。
まさに人工自然美ってヤツだな。

いちょうは、「東京都の木」でもあるし、東京都交通局のシンボルでもあるだろ。
だから、この場所は思い入れが強いんだよな。

今は青葉だけど、 秋の紅葉の時期は、地面まで落葉で金色に染まって、
すっげー綺麗なんだ。
枯れ葉の上を歩く感触って、けっこう楽しいよな?

秋に、俺のところにまた来いよ。
嫌とは言わせねー。約束だからな!

代々木さんとこは、明治神宮内苑って呼ばれてるだろ。
神社を中心にした和風の建築物に対して、
俺のところは、西洋風の庭園がある「外苑」って呼ばれているんだ。
代々木さんってさ、真面目そうな人なんだけど、
話すと案外面白くて……って、ん?

……ああ、歩くのが速かったか?
少し、お前に合わせてやるよ。
ほら、手。……こうすれば、はぐれないだろ。
……バーカ。そんなに照れたら、こっちが恥ずかしくなってくるだろ。ったく。

ここを曲がると、向こうに変わった樹が見えてくるだろ。
「なんじゃもんじゃの木」って俗称が付いてるんだ。
その地方には無いはずの、珍しい木のことをそう呼ぶみたいだな。
外苑のこの木は、モクセイ科の「ヒトツバタゴ」。
大正13年に天然記念物に指定されたけど、原木は枯れてしまって、
今では根分けされた2代目が残ってるんだ。
初夏になると、真っ白でキレイな花を咲かせる、
このあたりの名物のひとつなんだぜ。

で、この正面にある建物が、「聖徳記念絵画館」。
2011年に、重要文化財に指定された建物なんだ。

明治天皇の誕生からの歴史を80枚の大きな絵画にして展示してるんだ。
真ん中のドーム部分を中心に、左右の絵画室に分かれていて、
日本画と、明治以降から本格的に導入された洋画を飾っている。
半分ずつ楽しめるなんて贅沢だろ?

さてと……今日はとことん俺に付き合ってもらうからな。
まずはこの絵画館を案内してやる。
お前と一緒に行きたいんだ。

まだ、お前の事、帰してやんねーからな。
覚悟しろ。

ほら、ついて来いよ。

 

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