スペシャルレポート「「新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか」
著者・田村 圭介さん、上原 大介さんインタビュー」



―今回の書籍を執筆することになった経緯、きっかけを教えてください。
田村 圭介(以下、田村):SBクリエイティブ株式会社の編集者石恬搆b子氏から
ゲームクリエータ―の上原大介氏と共著で新宿駅についての企画をいただきました。
いままで自分は渋谷駅についてはじっくり時間を掛けて調べて来ました。
物事はひとつのことを調べながらも他のものも比較しないとそれが見えてこないものです。
だから渋谷駅をやりつつ横目に以前から新宿駅のことも調べていました。
新宿駅は新宿駅で、渋谷駅とは異なる興味深い点があるので、
いつか渋谷駅のように本にしてまとめてみたいと思っていたところでした。
ので、ちょうどよいタイミングで新宿の本のお話をいただきました。
そして以前から新宿ダンジョンのゲームでお名前は知っていて
興味深かったゲームクリエイターの上原氏とのコラボという点にも引かれました。
同じ新宿駅を扱っているのにアウトプットが違う二人が、書籍という形で同居しなければならないわけですから、
なにかおもしろくならないはずはないだろうな、という期待あるいは予感みたいなものがありました。
また、編集者の石怩ウんがなかなかのアイデアウーマンなので
一緒にお仕事をさせていただいたら何かおもしろいモノができるのではないか、と思いお引き受けさせていただくことにしました。

上原 大介(以下、上原):編集の方から新宿駅についての本を出さないかと声をかけて頂きました。
しかし、本なんて書いたこともないので自分にできるわけがないと断ろうとしたのですが、
駅に詳しい田村教授もいるのでどうだとのお話になりまして。
田村教授のことは渋谷駅の模型を製作したとのニュースで元々存在は知っていて、
あの尊敬する人と共同製作ができるのかと楽しみになり、実際書けるかもわからないままお話をお受けすることにしました。



―(上原さんに)アプリ「新宿ダンジョン」を作ったきっかけは?
上原:昔旅行で東京にきた時、実際に新宿駅で迷ってしまって。
それがかなり悔しく、道をマスターしようと調べてみたらネット上に完全な地図が存在しなかったんです。
じゃあ自分がいつか作ってやろうと思ったのですが、調べているうちにその駅の構造がRPGのダンジョンのように見えてきてしまって。
なので地図をせっかく作るなら、もうゲーム化してしまえと思って作り始めました。


―書籍を出版されて、周囲の反響はいかがですか?
田村:いままで出版した本に比べて読みやすく、読んでいて楽しいという声をいただいています。
新宿駅や新宿のことを知るという知識を得る喜びもあるのですが、
読み物として楽しめるように考えて今回は作ったのでそのような声は大変うれしく思っています。
「最高の癒し本」という方もいらっしゃいました。新宿駅を長く使っているけれども、
いろいろな場所やことがらが断片的にバラバラだったようなのです。
それがこの本を読んで新宿駅、その周辺、そして新宿という場所が一つのものとして理解でき、
ホッとしているのと新宿がなんだかかわいく思えてきた、ということなのだと思います。
また逆に物足りない、もっと深く掘り下げて書いてほしかったという声もいただいています。
渋谷駅、東京駅の本を書いているのですが、それらに比べると知識や情報量的には薄いのは確かなのですが、
知識ばかりを詰め込んで分かれ、とするよりも核心のさわりだけでも触れることで全体を感じてもらえればと思っています。
なので、これは新宿駅、新宿の入門書であって、これに導かれてもっと深入りしたい方はもっと探ってもらえればと思います。
入口として考えていただければと思います。が、大切なポイントは抑えています。
この本を読んで新宿駅・新宿の場所を感じていただければな、と思っています。
そのために若い方から年輩の方、男性から女性まで幅広くお読みいただけるように、読みやすいように柔らかく書いたつもりです。

上原:知人からはお前は何屋なんだという声が結構ありましたね。
自分もまさか本を出すことがあるとは考えたこともありませんでしたし。
初対面の人での反応では、アプリを作っていると言うより本を出したという方が反応いいですね。
結局どっちも新宿駅の話なんですけども。



―新宿駅の魅力について教えてください。
田村:まずはギネスにも認定されている世界一の一日平均乗降者数をもつ駅である点です。
実は個人的にはギネスとか世界一ということにはあまり関心がないのですが、
そんな世界一の駅がどんな駅であり、それがどのように機能しているかということに興味があります。
この本ではそんな新宿駅がどんな駅なのか、ということ、
そしてその駅がどんな風に生まれ育ってきたのか、ということについて書いています。
そして新宿駅がどんな駅かということが新宿駅の魅力なのですが、
その魅力は新宿の地形との密接な関係の中でその駅の形が形作られている点です。
新宿の地形とは、甲州街道が尾根筋を通っていることから周りよりも少し盛り上がった丘のような地形です。
その伸びやかな広がりの地形の上に、新宿駅はアメーバのような水平な広がりを持ち、
アメーバのように広がりながら拡張してきたのです。
その水平な広がりをもつ駅の形と、現在の形になるまでのプロセスに引かれそれらを追っています。
そのアメーバは周辺のビルや施設と地下通路などでつながり、
駅の改札を出ても駅の地下空間がずっと繋がっているような空間を作り出しています。

上原:新宿駅が面白いのはやはり地下にあると思います。
七つの駅が地下で繋がっていて、外に出なくても結構な距離を移動することができます。
全体を把握すると、移動するのも楽しいですよ。
案内板を見るのではなく、自分で近道を組み立てて最短距離を探す遊びができます。
新宿駅には迷路的楽しさがあると思います。



―今後、新宿駅はどのように変わると思われますか?
田村:前述したように新宿駅はアメーバのように東へ西へと水平に広がってきました。
最近は南のほうへ広がっていました。
その勢いは南の代々木駅と繋がってしまうのではないかと思わせるほどです。
しかし、今度のバスタ新宿は少し違う動きをしています。
これまで新宿駅の周りにあった19カ所の高速バスの乗降場所を巨大なバスターミナル一カ所に集約しました。
これは分散化から集約化、つまりコンパクトに一カ所にまとめて駅とその周辺の効率化を図るやり方です。
このバスタ新宿の動きに続いてこれから新宿駅周辺がもっと集約化していく動きが出てくるのではと思って見ています。
というのは、新宿駅は世界一なのに新宿駅の周りの建物は他の駅の周辺に比べたら低いと言われています。
現在、東京駅や渋谷駅などの大きなターミナル駅では駅前の超高層化が進んでいます。
その中でも新宿駅は、東口にルミネエスト、西口には京王百貨店、小田急百貨店の駅ビルがあるのですが、
かなり古くなりそして超高層ビルなんかと比べるとそれらは低い。
1970年代当初は、新宿西口は日本で初めての超高層ビル群ができたために、新宿駅は超高層ビルのイメージがあったものの、
ここまで駅前の超高層ビルが建ち並んでいる現在を考えれば、新宿駅前にはまだそういった超高層ビルはありません。
そこでこれから新宿駅前、東口と西口については超高層ビル化して
駅前にいろいろな機能や施設が集約化していくのではないかと考えているのです。

上原:最近南側の改装もありましたが、
今後予定されている西口東口をつなぐ改装も便利にする目的で構造を変えていっているので、
これから利用者に優しい駅になっていくのかなとは思います。
オリンピックもあるので外人さんもたくさん来ますしね。
とはいえ、どれだけわかりやすい・使いやすい構造になっても広さはどうしようもないのでこれまで通り遭難者はたくさん出るでしょうね。



―WEBコンテンツ「ミラクル☆トレイン」を読んでの感想を教えてください。また、「新宿 凛太郎」とのコラボの感想を教えてください。
田村:WEBコンテンツ「ミラクル☆トレイン」は読ませていただきました。
自分にとってはこういったものはほとんど触れる機会がないので興味深いです。
そもそも駅あるいは場所が擬人化されているアイデアには驚きました。
新宿や六本木がそれっぽい名前とともに人物として描かれており、
それらが会話したり感情を持ったりしていてそれは現代っぽくもあり、
同時にとても古いあるいは神話的でもあると思いました。
西洋だとギリシャ神話のようであります。
様々な神々が人間的に振る舞い、恋をしたり戦ったりと、
よく「ミラクル☆トレイン」を見ているとそっくりだな、と思いました。
日本だとそれこそ古事記であるとか日本書紀であるとかの神話と構造が同じではないかとも考えられます。
名前などはとくにタマトタケルノミコトみたいな響きのネーミングが「ミラクル☆トレイン」たくさんありますよね。
ただし違うのは彼らが戦わないということなんでしょうか。それが新しくもあります。
新宿凛太郎氏については、とても魅力的な方で新宿の神っぽくて
よく新宿というのを読み込んで擬人化していると思いました。
彼の振る舞いや性格もとてもよいかと思います。
新宿のことは熟知していると聞いているのでいろいろ勉強させていただければと思います。

上原:普通に擬人化しただけのコンテンツだと思っていたのですが、
登場人物の名前が路線の番号だったり、その他大江戸線の小ネタや豆知識がたまに入ってきたりと、
これさりげなく深いなと感動しました。
新宿凛太郎とのコラボは意外な所だったので驚きましたが、駅を介して繋がることができてとても嬉しいです。
一緒に駅や路線を盛り上げていきたいですね。



―今後の抱負やご予定などを教えてください。
田村:駅の本をいままで出したときは、駅の変遷過程を模型にしてから本を書いていたのですが、
今回は駅の模型化の前に本を出しました。
ので、これから新宿駅の模型化を行い、それを展覧会にて発表することが当座の目標です。
具体的にはどのような模型ができるかは展覧会の会場の広さ等によるのですが、
できれば新宿駅だけでなく新宿の地下通路全体を網羅した大きな模型を作ってダンジョン感が味わえればと思っています。
私の研究室ではターミナル駅について二つの面から模型化を試みています。
ひとつはその駅の空間構造を表す模型。
得てしてこれはその複雑な空間構造を表し、先に説明したような模型となります。
二つ目が最初に出した変遷過程の模型です。
現在の複雑な空間構造は突然できたわけではなく、
長い時間を掛けて徐々に増築・改築を繰り返しながら現在の姿に至っています。
その過程を模型で表しているのです。今度の新宿駅の展覧会ではこの過程まで模型で示したいです。
展覧会が行われる際には是非皆さんにもお越しいただきたいと思います。
また事前に『新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか』をお読みいただければ、
さらに展覧会を楽しんでいただけるかと思います。

上原:色々この駅をダンジョン化してくれ〜という要望が来ているので、それに応えていきたいですね。
渋谷駅は作成したので、あとはリクエストの多い梅田駅と東京駅は作りたいです。
ただこの二つはとても巨大なため、どれだけ時間がかかるかわからず、
結構な覚悟が必要でまだ着手できていません……。



ありがとうございました!